妊娠初期(4〜15週)
健康と美容
妊娠中の塗り薬は使える?ステロイド外用薬の安全性と注意点
妊娠中に皮膚トラブルが起きると、「塗り薬を使っても大丈夫?」「赤ちゃんに影響はないの?」と不安になりますよね。特にアトピー性皮膚炎や湿疹で普段からステロイド外用薬を使用している方は、妊娠が分かった時点で使用を迷われることも多いでしょう。
実は、妊娠中でも適切に使用すれば安全な塗り薬は多くあります。この記事では、妊娠中に使える塗り薬の種類や注意点、避けるべき成分について、最新の医療情報をもとに分かりやすく解説します。

妊娠中に塗り薬を使う際の基本原則
妊娠中の薬の使用には、いくつかの重要な原則があります。正しい知識を持って対処することで、母体と赤ちゃんの両方を守ることができます。
自己判断せず医師・薬剤師へ相談
妊娠中に最も大切なのは、自己判断で薬を使わないことです。 妊娠前から使用していた塗り薬でも、妊娠が分かったら必ず医師に相談しましょう。
妊娠中は、皮膚科だけでなく産婦人科にも相談することが重要です。産婦人科と連携している皮膚科を受診すると、妊娠時期に応じた最適な治療を受けられます。市販薬を使用する前にも、薬剤師への相談を忘れずに行ってください。
かゆみや炎症を我慢しすぎると、精神的ストレスが増大し、睡眠不足になることで、かえって母体や赤ちゃんに悪影響を及ぼす可能性があります。適切な治療を受けることが、結果的に赤ちゃんを守ることにつながるのです。
妊娠時期別の薬の影響
妊娠の時期によって、薬が赤ちゃんに与える影響は異なります。
妊娠初期(4週~15週) は、赤ちゃんの臓器が形成される重要な時期です。この時期に使用する薬については、特に慎重な判断が必要となります。
妊娠中期(16週~27週) になると、臓器の基本構造は完成していますが、発育への影響は考慮する必要があります。
妊娠後期(28週以降) では、出産時や新生児への影響を考慮した薬の選択が求められます。
塗り薬は皮膚から吸収される量が非常に少ないため、内服薬に比べて赤ちゃんへの影響は限定的です。ただし、使用する薬の種類、強さ、量、期間によっても異なるため、医師との相談が不可欠です。
妊娠中に安全な塗り薬の成分
妊娠中でも比較的安全に使用できるとされる保湿剤の成分があります。乾燥によるかゆみや肌荒れには、これらの保湿剤が第一選択となることが多いです。
ヘパリン類似物質配合の保湿剤
ヘパリン類似物質は、妊娠中でも安心して使用できる保湿成分の代表格です。 医療用医薬品では「ヒルドイド」という名前で広く知られています。
ヘパリン類似物質には、単なる保湿作用だけでなく、血行促進作用や抗炎症作用も備わっています。水分子を引き寄せて保持する力が強く、角質層まで浸透して高い保湿効果を発揮します。
妊娠中の安全性について、添付文書では「妊婦への投与に関する安全性は確立していない」との記載がありますが、これは「使用してはいけない」という意味ではありません。実際の医療現場では多くの妊婦さんに処方されており、これまでに赤ちゃんへの悪影響は報告されていません。
軟膏、クリーム、ローションなど剤型も豊富で、使用部位や季節に応じて選ぶことができます。入浴後5分以内に塗ると、より効果的です。
尿素配合の保湿剤
尿素配合の保湿剤も、妊娠中に使用できる選択肢の一つです。尿素には角質の水分保有力を高める作用があり、特に乾燥が強い部位に適しています。
ただし、尿素配合の保湿剤には注意点があります。傷がある部位に使用すると刺激を感じることがあるため、掻き壊した皮膚には使用を避けましょう。 また、顔などの皮膚が薄い部位への使用には慎重な判断が必要です。
尿素の濃度は製品によって異なり、10%と20%の製品が一般的です。症状や使用部位に応じて、医師が適切な濃度を選択します。妊娠中の使用については、医師の指導のもとで適切に使用すれば問題ありません。
妊娠中のステロイド外用薬使用
ステロイド外用薬に対して「怖い」というイメージを持つ方も多いですが、実は妊娠中でも適切に使用すれば安全性が確認されている薬剤です。
ステロイド外用薬のランクと安全性
ステロイド外用薬は、その効果の強さによって5段階に分類されています。
- 最も強い(Strongest)
- とても強い(Very Strong)
- 強い(Strong)
- 普通(Medium)
- 弱い(Weak)
妊娠中でも、通常の使用量であれば、ステロイド外用薬の使用は安全とされています。 大規模な研究では、ステロイド外用薬の使用と口唇口蓋裂、早産、赤ちゃんの死亡との間に相関関係は認められませんでした。
皮膚から吸収されるステロイドの量は非常に少なく、それがさらに胎盤を通過して赤ちゃんに届く量は、ごくごくわずかです。そのため、過剰に大量に使用しなければ、まず問題は生じないと考えられています。
むしろ、かゆみや炎症を我慢することで生じるストレスや睡眠不足の方が、赤ちゃんに悪影響を及ぼす可能性があります。症状に応じて適切な強さのステロイド外用薬を使用することが大切です。
マイザー軟膏など特定の薬の安全性
マイザー軟膏は、5段階中「とても強い(Very Strong)」に分類されるステロイド外用薬です。有効成分はジフルプレドナートで、アンテドラッグステロイドという特性を持っています。
アンテドラッグステロイドとは、患部で優れた効果を発揮した後、体内に吸収されると速やかに代謝されて薬効を失うよう設計された薬のことです。このため、全身への副作用が少なく、安全性と有効性に優れています。
妊娠中にマイザー軟膏を使用する場合も、医師の指示に従って適切な量と期間で使用すれば、基本的には問題ありません。 ただし、大量または長期にわたる広範囲の使用は避けるべきです。
妊娠中や妊娠の可能性がある場合は、必ず医師に伝え、症状の程度に応じて適切な強さのステロイド外用薬を処方してもらいましょう。
長期・広範囲使用のリスク
ステロイド外用薬は適切に使えば安全ですが、強力なステロイド外用薬を大量に、長期間、広範囲に使用すると、低出生体重のリスクが高まる可能性が報告されています。
具体的には、「とても強い(Very Strong)」または「最も強い(Strongest)」クラスのステロイド外用薬を、妊娠全期間を通じて300グラム以上使用した場合に、低出生体重児のリスクが有意に増加したという研究結果があります。
一方で、弱いまたは中程度の強さのステロイド外用薬の使用は、逆に赤ちゃんの死亡リスクを減らす可能性も示されています。これは、適切な治療により母体のストレスが軽減されることで、結果的に赤ちゃんにとっても良い影響があることを示唆しています。
重要なのは、「使わない」ことではなく、「適切に使う」ことです。医師の指導のもと、必要最小限の強さと量で、必要な期間だけ使用することを心がけましょう。
妊娠中に避けるべき塗り薬の成分
妊娠中には使用を避けるべき塗り薬の成分もあります。これらの成分は、赤ちゃんに悪影響を及ぼす可能性が指摘されているため、特に注意が必要です。
サリチル酸配合の薬
サリチル酸は、角質を柔らかくする作用があり、イボやタコの治療、ピーリング効果を目的として使用される成分です。
妊娠中のサリチル酸外用使用に関する大規模な研究は限られていますが、サリチル酸は皮膚からある程度吸収されることが知られています。 そのため、赤ちゃんにリスクを及ぼす可能性は低いとされていますが、医師は通常、正常な皮膚への使用に限り、慎重に使用するよう推奨しています。
特に、サリチル酸を使用したピーリング治療は、妊娠中には避けることが推奨されています。 代替として、乳酸やグリコール酸を用いたピーリングが選択されることがあります。
市販の角質ケア製品や一部の消炎鎮痛剤にもサリチル酸が含まれていることがあるため、妊娠中は成分表示をよく確認し、使用前に医師や薬剤師に相談してください。
レチノイド配合の薬
レチノイド(ビタミンA誘導体)は、妊娠中に最も注意すべき成分の一つです。 ニキビ治療や美容目的で使用されることが多い成分ですが、妊娠中の使用は避けなければなりません。
レチノイドは強力な催奇形性物質とされており、胎児レチノイド症候群を引き起こすリスクがあります。この症候群には、発達の遅れ、頭蓋骨や顔の奇形、心臓の異常、中枢神経系の異常などが含まれます。
特に注意が必要なのは以下の成分です。
- トレチノイン(医療用レチノイド)
- イソトレチノイン(アキュテイン:内服薬)
- タザロテン(外用レチノイド)
- レチノール(化粧品に配合)
医療用のトレチノインや内服薬のイソトレチノインは、妊娠中の使用が禁忌とされています。化粧品に配合されるレチノールは濃度が低く、外用による影響は限定的とされていますが、多くの皮膚科医は念のため妊娠中の使用を控えるよう指導しています。
もし妊娠に気づかずに短期間使用してしまった場合でも、過度に心配する必要はありません。すぐに使用を中止し、担当医に相談してください。
妊娠中の皮膚トラブルと対処法
妊娠中はホルモンバランスの変化や免疫機能の変化により、さまざまな皮膚トラブルが起こりやすくなります。
アトピー性皮膚炎の悪化
妊娠によって、アトピー性皮膚炎の症状が変化することがあります。 症状が良くなる方もいれば、悪化する方もいます。
悪化の原因としては、ホルモンバランスの変化、つわりなどの体調不良により外用薬を塗れなくなること、皮膚の乾燥が進むこと、汗をかきやすくなることなどが考えられます。
基本的な治療は、妊娠前と同様に保湿剤とステロイド外用薬の併用です。 症状の程度と妊娠時期に応じて、医師が適切な治療法を選択します。必要に応じて、抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬の内服を行うこともあります。
授乳を予定している方で、乳首周辺にアトピー性皮膚炎の症状がある場合は、授乳開始前に治療しておくことをおすすめします。授乳中に症状が悪化すると、授乳自体が困難になる可能性があるためです。
妊娠性痒疹の症状と治療
妊娠性痒疹は、妊娠中に特有の皮膚トラブルの一つで、妊婦さんの約2~5%に発症するとされています。
症状の特徴
- 妊娠初期から中期(3~4ヶ月)に発症することが多い
- 腕や足、お腹や背中などに、数ミリ程度の湿疹や丘疹ができる
- 強いかゆみを伴い、夜も眠れないほどになることもある
- 掻いているうちに固い発疹(痒疹)になり、治りにくくなる
- 2回目以降の妊娠で発症しやすい傾向がある
- 出産後には症状が改善することがほとんど
原因は完全には解明されていませんが、妊娠によるホルモンバランスの変化が関係していると考えられています。もともと乾燥肌、敏感肌、アトピー性皮膚炎の傾向がある方に発症しやすいとされています。
治療方法
主な治療は、ステロイド外用薬の塗布です。「強い(Strong)」以上のランクのステロイド外用薬を1日2回使用することが一般的です。
皮膚の乾燥が症状を悪化させるため、保湿剤を併用することも重要です。かゆみが非常に強い場合は、妊娠時期と症状に応じて、抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬を内服することもあります。
セルフケアのポイント
- 皮膚を清潔に保つ(低刺激の石鹸で優しく洗う)
- 入浴後は速やかに保湿する
- 掻き壊さないよう注意する
- 綿素材の下着を選ぶ
- 濡れタオルで冷やす
症状が強い場合は我慢せず、早めに受診しましょう。適切な治療により、1日程度でかゆみが落ち着くケースも多くあります。
皮膚科・産婦人科受診のポイント
妊娠中の皮膚トラブルでは、適切な医療機関を受診することが重要です。
受診のタイミングと伝えるべき情報
以下のような症状がある場合は、早めの受診が必要です。
- かゆみが強く、日常生活や睡眠に支障がある
- 皮膚の症状が急速に悪化している
- 発疹が全身に広がっている
- 発熱や風邪症状を伴う皮膚トラブル
- 掻き壊して出血や化膿がみられる
受診時に必ず伝えるべき情報
- 妊娠週数(妊娠何週何日か)
- 現在使用している薬(塗り薬、飲み薬、サプリメント含む)
- 過去のアレルギー歴(薬剤アレルギー、食物アレルギーなど)
- これまでの皮膚トラブルの経歴(アトピー性皮膚炎など)
- かかりつけの産婦人科の情報
皮膚科と産婦人科、どちらを受診すべき?
基本的には、まずかかりつけの産婦人科に連絡して相談することをおすすめします。産婦人科から皮膚科を紹介してもらえることも多くあります。
皮膚科を直接受診する場合は、受診時に必ず妊娠していることを伝えてください。可能であれば、産婦人科と連携している皮膚科を選ぶと、妊娠時期に応じた適切な治療を受けやすくなります。
市販薬使用前の薬剤師への相談
市販薬を使用する場合も、必ず薬剤師に相談してから購入・使用してください。
薬剤師への相談時に伝える情報
- 妊娠していること、妊娠週数
- 症状の内容と部位
- 現在使用している他の薬
- アレルギーの有無
市販のステロイド外用薬は、「強い(Strong)」以下のランクまでしか販売されていません。「とても強い(Very Strong)」以上のランクのステロイド外用薬は、医師の処方が必要です。
また、市販薬には複数の成分が配合されていることが多いため、妊娠中に使用を避けるべき成分が含まれていないか、薬剤師に確認してもらいましょう。
市販薬を使用する際の注意点
- 5~6日間使用しても改善しない場合は使用を中止し、医師に相談する
- 症状が悪化した場合はすぐに使用を中止する
- 用法・用量を必ず守る
- 広範囲への使用は避ける
市販薬で対処するよりも、医療機関を受診して適切な診断と治療を受ける方が、結果的に早く症状が改善し、安心して妊娠生活を送ることができます。
まとめ
妊娠中でも、正しい知識と医師の指導があれば、安心して塗り薬を使用できます。ステロイド外用薬は適切な量と期間で使えば安全性が確認されており、かゆみや炎症を我慢するよりも、しっかり治療する方が赤ちゃんにとっても良い結果につながります。ヘパリン類似物質や尿素などの保湿剤も妊娠中に使用できる心強い味方です。一方、レチノイドなど避けるべき成分もありますが、それらをきちんと把握しておけば過度に心配する必要はありません。何か不安を感じたときは、一人で悩まず医師や薬剤師に相談してください。あなたと赤ちゃんの健やかな毎日のために、適切なスキンケアで快適なマタニティライフを送りましょう。
